2008年12月24日水曜日

おまけの没原稿(黒澤世莉)

黒澤世莉です。演出です。メリークリスマス。
「江戸の敵を長崎でとる」というのを書きますといってから、はや一ヶ月。もはや明日から「proof」の公演がはじまってしまいますね。忘れたわけではないのです。忘れたわけではないのですが、まあ、ねえ。いろいろあるじゃない。年の瀬だもの。

で、今日は当日パンフレットに寄稿したのですが、長すぎると没にされました。とほほ。せっかくだからブログで日の目を見せてやろうと思います。

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少し数学者の話を書きますね。

フェルマーの最終定理を証明したアンドリュー・ワイルズは、30年間この定理のことを考え続けて、一度は発表した証明に大きな欠陥が見つかり絶望的な挫折をしたものの、その9ヶ月後には修正して証明を完成させます。
岡潔は、多変数解析函数論に20年間挑戦し続け、志半ばで亡くなりますが、三大問題の解決を初め、多くの業績を残しました。

数学者とは、ただ計算をする生き物ではありません。先陣の開拓した荒野の先に、新たな地平を切り開く芸術家なのです。困難な問題に、想像力と技術を駆使して立ち向かう。信じられるのは自分ひとり、自分の心の声に従って問題に挑み続ける。問題は解けるかもしれないし、解けないかもしれない。

でもつきつめて言ってしまえば、問題が解決するかしないかはさしたる問題ではないと、私は思います。挑み続けることこそが、存在しているという「証明」になり、それは人間として美しいことだからです。数学者に限った話ではありません。彼らの数学を私たちの日常に置き換えてみれば、それは困難にあふれているし、理不尽だし、間違えばかり犯している。「よく生きる」という言葉の意味は、心の声を聞きながら、生活への挑戦と敗北を繰り返すということだと思います。私は「よく生きる」ひとが好きです。

本日はご来場ありがとうございます。
演劇はお客さまのものです。
観ることで、味わうことで、作品を完成させてください。